BLOGしょう先生のブログ
この世界には、不思議な木、クスノキがある。
大きなクスノキは、中が空洞。
その中で、毎日儀式が行われるという。
中に入れるのは、事前に申し込みをした、1人だけ。
そのクスノキの中で、毎日熱心に祈念する人。
それは何年も続く儀式で、祈念する人もさまざま。
なぜ、祈念するのか?
どんなシステムなのか?
何も知らされることなく、そのクスノキの番人を任せられた玲斗。
毎日何をしているのかよく分からない。
そんな仕事、辞めてしまえば良いのだけど。
玲斗は最近、住居侵入、器物破損、窃盗未遂で捕まったばかり。
複雑な家庭環境で育った玲斗には唯一の親族、千舟がいた。
その千舟に「クスノキの番人をすること」を条件に釈放してもらったので、
何も分からないまま、クスノキの番人を続けざるを得なかったのである。
主人公も、読者も手探りのまま始まる物語
このお話は、玲斗が何も分からないままクスノキの番人を始めるところから始まります。
私たち読者も何も分からないまま読み始めます。
そのため、結構序盤から中盤にかけては少々読み進めにくい感じがありました。
土台がしっかりしていない地面に、たくさんのロープが投げ込まれて絡まっているような、つかみどころのない状態。
でも、後半に入ると、絡み合っていたロープがするり、するりと解けていく感覚になり、一気に読み終わりました。
読み終えた爽快感と、あまりの加速後に残る、一抹の淋しさと。
筆舌に尽くしがたいこの感覚をみなさんにも味わっていただきたいな…と思います。
記憶に残ったシーン
私が、この本を読んで、ぐっと心を掴まれた部分を紹介します。
(お話が伝わりやすいように、簡略化しているので、本文のままではありません。)
千舟「あなた、将来はどうするつもりですか」
玲斗「とりあえず今のままでいきます。生きていければそれでいいです。どの道、大した人生じゃないし」
「ずいぶんとエンセイ的ですね」
「エンセイ?」
「世の中に絶望しているという意味です。どうしてそう思うのですか」
「俺なんて、本来なら生まれるべきじゃなかった人間です。そんな人間がー」
がんっ、と千舟が大きな音をたてた。持っていた茶碗をテーブルに叩きつけたのだ。
玲斗は驚き、続けるべき言葉が頭から飛んだ。
「あなたの生き方に口出しはしません。」
彼女は感情を押し殺した声で静かにいった。
「ただ1つだけアドバイスするならば、この世に生まれるべきでなかった人間などいません。
どこにもいません。どんな人間でも、生まれてきた理由があります。そのことだけは覚えておきなさい」
誕生した小さな命を、大人の都合で生まれる前に奪ってしまうこともできる時代。
一方で、産むだけ産んで、望まれない子を放置する親もいる時代。
正妻の子ではない、不倫でできた子もいる時代。
いろんな命が、大人の事情で操られる。
操られるのは、いつも、何の罪もない子どもたち。
親を選べない子どもたちは、いつか自分の出生を知り、
この世に生まれるべきでなかった存在ではなかったのかと自問自答することになる。
そんな世界で
「あなたには生きる意味がある」とストレートに訴えかける千舟の言葉。
私もまだ、生きている価値があるのかな…と、胸が苦しくなりました。
本書「クスノキの番人」は、ページ数が483ページ。
かなりボリュームがありますが、ご興味ある方は、手にとってみてくださいね。
今日もお読みくださり、ありがとうございました!